1ハッピーメール



 インターネットを毎日利用していると、見知らぬ人からメールが届くことがある。それはショップであったり、出会い系サイト、ウイルスメールや迷惑メール。登録もしていないのに勝手にメールマガジンが配信されているときもある。一日に何百通と届くこともある。どう見ても怪しいものから、興味をそそられるものまで。その日私の元へと届いた一通のメールは、後者のほうだった。


『1ハッピーメール』
 みなさま初めまして、1ハッピーメールです。
 このメールは、あなたに1ハッピーをお届けするためのものとなっています。
 特別に必要な物も、お金も必要ありません。あなたさえよろしければいいのです。
 あなたのお時間をいただくかわりに、1ハッピーをお届けいたします。
 毎日が退屈だと感じている方、刺激が足りないと飢えている方、ただ純粋に興味がある方。
 当メールはどんな方でも歓迎いたします。
 1ハッピーを手に入れたい方は、下の住所の方までお越しください。その後は担当員がご案内いたします。
 

 
 上のような文章に続いて、住所が書かれていた。恐らくは向かうべき場所のものなのだろう。
 はじめは、どこにでもありそうなメールだと思った。
 見知らぬ送信者に、うさんくさいメール。そんなものは毎日既にたくさん届いている。唯一興味をひかれた部分といえば、特に物が必要ではないというところだった。大抵は巨額の資金、前もって準備するものなどがあるのに、このメールにはそれがいらないと記されている。必要な物は、メールを受け取った人の了解だけでいいのだと。そうして向かった先にはいったいどんなものがあるのか――私は、それを知りたいと思った。私はごく普通のサラリーマンで、もう三十をすぎているというのに独身。上司には日々無理な仕事を任され、昇進も見込めそうにはない。失うものがない、というのは大げさになってしまうけれど、特別失いたくないというものもない。自分の身は大切だが、死にたくはない、長生きしたいという願望も特にない。そんな、ない物尽くしの私の人生。
 たとえ何が起こっても自分がよしとしたことならば、問題ないのではないだろうか――
 そうした考えがメールを読んだ私の中にむくむくと首をもたげてくる。ひどく自己中心的な考えだとは思ったが、そういう風に思ってしまったものは仕方がない。指定されている場所へと行ってみようと私は思った。
 もう一度よくメールを読んでいると、住所の書かれているところから下へとまだメールは続いていた。


 
 さて、1ハッピーを手に入れる準備はできましたか? できましたなら、ここで簡単なクイズをひとつ。
 聡明なあなたならば簡単に答えはわかるはずです。もちろん、面倒くさいという方は飛ばして構いません。
 すぐに住所の場所へと向かってください。くだらないクイズに付き合っていただけるという方は、スクロールを。


 その文をみて、いったいどんなクイズだろうという興味も一瞬はわいた。しかし、私はクイズをやっている時間があるのならば、住所の場所へと向かってみたいという欲求の方が勝っていた。だから、メールの続きを見ることはせずに住所だけをメモし、パソコンの電源を切った。そうして私はメモを持って、家を出た。
 いったいどんなことが待っているのか……私はただそれだけを考えていた。














 それでは、クイズです。ひどく簡単でくだらない問題ですから、心配はいりません。
 では問題です。


 1 2 3……これらの数字をフランス語ではなんというでしょう?
 
 聡明なあなたならば、おわかりでしょう。




 数字の意味を理解されてもなお向かいますか? 


 それでは――素敵な時間をすごすことができますよう。
 
 

 

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