mader?


 この日、俺は町でぶらぶらと暇をもてあましていた。
 メールチェックなどをしてみたが、誰からも何の連絡もなく。
 買い物をしようかとも思ったが、特に必要なものもなく。
 掲示板を覗いてみても、興味のない書き込みばかりで。
 遊びにでもいかないかと何人かの友人に連絡したが、返事がないままだった。
 だからといって、町を歩く人をナンパしてみるほど度胸もない俺。
「何か面白いことでもねーかな……」
 こういうとき、かわいい女の子にでも話しかけられればいいのに。逆ナンみたいな感じでさ。
 そんな俺の小さな願いは叶うはずもなく。俺の周りに集まってきたのは、数人の男たちだった。
 俺はそいつらの顔を見てみたが、見覚えはない。ただ単に俺が忘れているだけかもれなかったが。
「何……俺になんか用でもあんのか?」
 ほんの少しの警戒を含ませてかけた問いに返ってきた返事は。
「お前さ、ケイ?」
 Kっていったい何のことだ……と馬鹿みたいに一瞬考えてから、それは俺の名前だということに気が付いた。
 自分の名前なんて普段意識していないから、なんだかわからなかったというわけだ。
「そうだけど……あんた誰?」
「おいおい――忘れたとはいわせないぞ? ほら、オレだよオレ。カズヤだよ」
 頭の中にある記憶と、今目の前にいるカズヤという名前と外見を照らし合わせてみる。
 数秒後、俺の中で思い出したことがあった。たしか、ずいぶん前に知り合ったやつのような気がする。
 そのときのカズヤは、もっと弱弱しい外見だった気がするんだが。
 今目の前にいる男は、がっしりとしていて、随分と強そうに見える。
「あぁ――お前か! 随分と久しぶりだな。最近全然あってなかったじゃん」
「お前の噂聞いたから、ちょっと出てきたんだよ」
「ふーん。それで、他の人たちは誰?」
「やっぱり覚えてないんだな……ユウジと、キョウヤと、シュンだよ」
 再び記憶と照らし合わせてみるが、さっぱり覚えがない。なんというか、よくある名前でわからねぇ。
 過去にあったことはあるのかもしれないが、あまり仲がいいわけではなかったんじゃないだろうか。
 男友達なんて、そんなもんだろ?
「うっかりしてただけだって。この俺様がダチのこと忘れるはずないじゃんか。で、用あんの?」
 相変わらずだな、とケンジがぼやいていたが俺は見ない振りをした。
「まぁ、用っていうほどのことじゃないんだけどな。ケンカしにきただけさ」
「ケンカぁ? おいおい、俺一人にお前達かよ。随分と卑怯じゃねえか」
「卑怯? お前がいえる立場じゃないだろうに。こっちはずいぶんとストレスが溜まってるんだよ」
 カズヤと話している間にも、後の二人に俺は囲まれていた。
「で……殴り合いでもするわけ? それなら大歓迎だけど」
 俺がそういうと、近くにいるシュンってやつが鼻で笑いやがった。
「殴り合いなんかじゃ、おれの気は済まない……」
 少しイラついている様子のキョウヤがそういった。
「あいつらもそういってるからさ……殺させてもらう」
 そういうなり男たちは、腰元から剣を抜いて、俺に突きつけた。
「おいおいっ……マジかよ!?」
 だいたい街中で剣だすとか禁止だろ!? 
 そんなことを考えているうちに、ケンジの後ろで銃を構えているユウジが見えて、俺は慌てて駆け出した。
 できうる限りの全速力で街から、男達から俺は逃げる。
 いきなり刃物を振り回すなんて、正気じゃない。これから殺すなんて宣言も。
 でも、少し楽しいと思っている俺も……イカれてるけどな。
 にやりと口元を歪めながらも、俺は走り続ける。
 俺は町から離れて、林へと逃げ込む。少しはまけたかと思ったが、相変わらず銃撃は続いていた。
「前から、一回人殺したかったんだよなぁ!!」
 物騒なセリフと共に、カズヤが切り込んできて、俺はぎりぎりで避けた。
 追われるのは嫌いじゃないが、今の俺は丸腰だ。どうみたって勝てやしない。
 避けた勢いで、俺は木の根に引っかかって転んでしまった。
 数メートル転がった俺が立ち上がろうとすると、すぐ側に剣が突きたてられた。
「チェックメイト、だな……ケイ?」
 そういいながら俺を見下ろすカズヤの顔には笑みが刻まれていて。
 見ているだけで、いらいらしてくる。
 二つの剣と、一つの銃が俺に狙いを定めていた。
「あー。ここで思いとどまったり……しないよなぁ」
 カズヤへ向けてというより、俺自身に向けてのボヤキ。
「当たり前だろ」
 そして、嫌な音と共に俺の視界は暗転した――




 暗転するときの残像が目に残って、チカチカした。
 舌打ちをしながら俺はディスプレイをつけなおして、キーボードへと指を走らせた。
 たったいま、俺を殺したばっかりのやつらへと向けて。
『まったく……本当に殺してくれやがって』
 メッセージを飛ばすと、カズヤからすぐに返事が返ってきた。
『元はといえば、お前が悪いんだから自業自得だろ』
『いったい俺が何したってんだよ?』
『お前なぁ……やっぱり変わってないな。散々オレのアイテムやら何やら持ってっておいて』
『あぁ? アレはお前から借りただけだろう』
『借りたら返すのが常識だろうが、アホ。最近見ないと思ってたのにな。キョウヤ達から相談されてな』
 まったく覚えていないが、どうやらあの男達から色々と盗んでいたらしい。
 同じようなことを何度も繰り返してるから、覚えているはずがない。俺にとっては皆同じカモなんだから。
『だいたい、キャラ何か作っては消しだからいちいち覚えてないんだって』
『根っからの詐欺師みたいだよな、お前』
『悪かったなあ。俺はこういう奴なんだよ。で、カズヤはどうなんだよ感想』
『ん……ああ、PKの感想か。そうだな……お前に限ってなら、すかっとするかもしれないな』
『うっわ、この人殺し。サイテーなやつめ』
『お前にいわれたくはないって、この殺人鬼め。今までにいったい何人殺した?』
『さあ、な。覚えていられないくらい、たくさんってことだけは確かだぜ』
『そういえば……キョウヤ達も喜んでた。やっと憂さ晴らしができたって』
『ったく今日はまんまとやられたからな……今度やりかえしてやるって言っとけ』
『いつまでたっても終わんなさそうだな……リアルでは、殺したりするなよ?』
『わかってるって。ってか、これって人殺しになんのかな』
『さぁ……オレもさっきお前のこと殺したからなぁ……何ともいえない。確かなのは』

『――イカレてる』

 まったく同じ文字が画面に浮かび上がって、俺は苦笑した。
 その後しばらく話をしてから、俺はPCの電源を切りディスプレイを外した。
 ネットだろうがリアルだろうが……どちらにせよ俺はきっと人殺しさ――
 

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