「あのね、姉さん。あたし、好きな人ができたの」
「あら、良かったじゃないの。おめでとう」
「ありがと。とっても、大好きな人なんだ」
「何ていう人なの? 私も知ってるかしら」
「もちろん。あのね、彼の名前はね……」
私達は、同じ人を好きになった。
あたしは、部屋の中で着替えをしていた。
今日は、大好きな彼と、姉さんとのデート。
遊び友達と出かけるよりも、念を入れなくちゃ。
洋服棚の中をがさこそと、引っ掻き回す。この間の服……どこかな。
確か、二段目にしまっておいたはずなんだけどな――
頭を捻っていると、一階から、大きな姉さんの声が聞こえた。
「いつまで着替えているの? 待ちくたびれてしまうわよ」
慌てて、服を探し出して、身に纏い始める。姉さんのことを考えながら。
香織姉さん。あたしの片割れで、唯一無二の人。
あたし達は、一卵性双生児。いわゆる、双子ってやつなの。
あたし達は、ホントにそっくり。
顔のつくりとか、目の大きさとか、唇とか。
姉さんが二重で、あたしが一重。
髪は、あたしがショートで、姉さんがセミロング。
でも、いくら見た目が似ていても、性格は全然違うのよね。
すっごく不思議。
姉さんはいつも落ち着いていて、とても同じ年には見えないの。
言葉遣いも丁寧だし、肌も色白で綺麗。
難しい、外国語の本なんかも読んでるみたい。
あたしなんか、ガサツで乱暴で……
ちょっとしたことでも、大きな音立てちゃったり。
肌なんか日焼けして、こげこげの色。
ああ、おしとやかな、姉さんが羨ましいなぁ。
でも、こんなあたしでも、彼は愛してくれるの。
好きだといってくれるの。それに、あたしも彼のことが好き。
両思い、こんなに幸せなことってある?
何よりも、大切な人達。
あ、あんまり待たせたらいけないよね……
あたしは考えを終わらせて、一階へと駆け下りていった。
ショッピングモールへ付くと、色々なお店を物色しながら、歩いた。
もちろん、彼の腕も掴みながらね。
やっぱり夏だから、日差しが強いけど、それがまたいい感じ。
外で買い物もいいよね。もっと、黒くなっちゃうけど。
姉さんは大丈夫かな……と思って振り返ると、しっかり日傘を差していた。
さすが、姉さん。準備ばっちりだね。
なんだかのほほんと歩いてるけど……転ばないかな……?
彼の腕を掴んでるみたいだから、平気だよね。
しばらく歩いていると、一軒の雑貨屋が目に付いた。
小物以外にも、アクセサリーも売ってるみたい。あ、あれいいなあ。
薔薇十字のネックレス。薔薇は……ルビーかな?
その隣には、アメジストのと、サファイアのもある。
姉さんにプレゼントしたいな……
そう思ってあたしは、彼におねだりしてみた。
ちょっと困った顔をしていたけど、いいよといってくれた。
もちろん全部じゃない。姉さんのだけだもん。
あたしはルビーを買って、彼はアメジストを買うみたい。
彼が買って、あたしが渡す。不思議な流れ作業みたい。
店員の人は、綺麗にラッピングをしてくれた。
三人でお揃い、なんだかワクワクしちゃうな。
姉さんに渡すのが楽しみ。
また別の日。あたしは姉さんと一緒に食事にきていた。
いくら彼のことが好きでも、四六時中一緒にいるわけじゃない。
一人暮らしだからって迷惑になっちゃうもの。
彼に嫌われるなんて考えただけでも死にそうだよ。
この間いったショッピングモールにあるお店。
メニューにはパスタばっかり。でも、色々あるみたい。
どれも美味しそうでなかなか選べないよ。いっそ何個か頼もうか?
「一つだけにしておきなさいよ?」
……見透かしたかのように姉さんに言われてしまった。
あたしの考えてることでもわかるのかな?
少し経って、あたしの所にはトマトソースのパスタが到着した。
姉さんのは……黒いツブツブしたのが入ってる……?
なんだろあれ。たらことイカスミとか?すごい組み合わせ……!
姉さんは美味しそうに食べてるけど、なんか気になる。
とりあえず目の前のパスタに専念しようとしたとき、何かが目の隅に映った。
…………?あれ、彼かな?
「姉さん、あそこにいるの彼じゃない?」
いうと、姉さんは訝しそうに斜め前の席を見る。
あたしももう一度見直す。そして、フォークを落としそうになった。
彼と一緒に女の人がいたから。綺麗で清楚な感じで……姉さんみたいな人。
でも、雰囲気が似てるだけで別人。
どうして?ナンデ?なんで他の人といるの?どうして?
彼と女の人はとっても仲がよさそう。
楽しそうに、幸せそうに笑いあってる。
あぁ。あんな人消えちゃえばいいのに。
コロシテヤリタイ……
なんだろう。違和感がある。
あたしに向けてくれる笑いとは違うような?
今までに、ミタコトない笑顔。
どうしてその笑顔をあたしに向けてくれないの?
あたしから、離れないで。
ああ、気持ち悪い。とっても気持ちが悪い。
どうして彼は、女の人と一緒にいたのかな。
どうしてかな、理由が知りたいな。
聞いたら、教えてくれるのかな?
それとも、ウソ、吐いちゃうのかな。
あたしのこと、嫌いなのかな。
姉さんは、ああ言ったけど……でも。
やっぱり、納得がいかないの。
人間って、誰でも、やっぱり……ウソ吐きなのかな。
あたしの愛を、もらってください。
決して、拒絶しないでね。
リビングで料理を待っていると、いい匂いが漂った。
「どう?出来てるかしら?」
姉さんが料理をもってくる。
出来てるも何も……ものすごい美味しそう。
あたしも料理はできるんだけどな〜姉さんには負けるね。
食卓を囲んで三人で晩御飯。とっても楽しい時間。
一口食べる。やっぱり姉さんの料理は上手だ。あたしのはパワフル。
野性味溢れるっていうか……ワイルド?美味しいけど。
彼も美味しそうに食べてるもん。あ、こぼした。
あたしは彼の口元をふきんでぬぐってあげた。
ん?彼になんか白い虫ついてる……とっちゃえ。
「そんなに急いで食べなくてもいいのよ?」
姉さんが彼に笑いかける。
幸せな時間。
「ところで姉さん、なんか羽虫多くない?」
なんかブンブンちっちゃいのが飛んでるんだけど……ちょっとイヤだな。
「羽虫なんかよくいるわよ?気にしないのが一番よ」
それもそうだ。納得しちゃった。
あ。姉さんにも白いのついてる。邪魔だなあ。
姉さんから虫をむしりとる。
「ありがとう」
礼をいわれるとなんだか体がこそばゆくなってくる。
あたしの首には赤。姉さんの首には青。そして彼の首には紫
赤と青を混ぜると紫になる。
二人で一つ。
三人で一つ。
大好きな人と、大切な姉さん。
ずっと一緒にいられるなんて。
あぁ…あたしとっても幸せ。
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