散文
Novels
ここに置いてあるものは、散文です。
ダミーロボット
一つの "人型" がひとりの "少女" に恋をした
ただひたむきに恋い慕い
金色の繊維に赤を鎧う
合成音の囁きは彼のもの
リンゴみたいに色づいたほほ
あやめ色した瞳に銀の髪
鈴の笑い声は彼女のもの
彼の仲間はうらやましがって 彼女の友人は必死でとめた
機械仕掛けの騎士さまはお姫様を守る
いっしょうけんめい 精一杯に
でも誰から? そしてなぜ?
知らぬままにざわめく心に従って
それは彼の思いだけ 彼女はそばにいてほしかったのに
ばったばったとなぎたおして
兵隊さんはバラバラ 彼も割れて壊れちゃった
いくら嘆いても少女の涙じゃくっつかない
馬鹿な"理論"を吐き捨てる科学者が"偽物"を作った
姿かたちはそっくり同じ
メモリーだってお手の物
それでも笑顔はダミー
心は複製できなくて別のもの
それでも彼は彼女に恋煩い
想いだけはフェイクにならなくて
『邪魔をするやつがいるのなら俺がぜんぶ壊してやる』
同じ声と姿と言葉で偽物は囁く
信号が回路を走るがままに
位相はずれているけれどそれは真実
そこにダミーはあるの?
ダミー・ロボット It is human?
彼女は涙をこぼしこぼし 首をいやいや
ダミー・ロボット It is naughty?
彼は手を伸ばしてみては ひっこめてる
機械仕掛けの偽物はお姫様をほしがって
枯れない音を嗄らして ぎりぎりまで手を伸ばして
傷つけたいわけじゃあないのに 追い詰めてしまう
お姫様は偽物から悲しそうに遠ざかる
あなたは違うのと叫んで 彼だけど彼じゃないのと
嫌いなわけじゃあないのにと 小さな胸痛めながら
偽物の中には想いはあって 彼女のなかにもそれは同じ
でも姿かたちには宿っていなくて
記憶の中に心はあるの?
ダミー・ロボット
I wish for she be always filled with Happiness
ダミー・ロボット
Thank you for a lot of Memories
"彼"の仲間が"偽物"を壊した 彼のままでいられるようにと
壊れたダミーに彼女は花を手向ける
記憶の中で彼は生き続ける
合成音の囁きは恋の調べ
かわいそうな しあわせな
ダミー・ロボット
指先の不可視
手を前へと伸ばしてみようか
何があるかな
すべすべ ざらざら ぬるり?
ひりひりしたり、冷たかったりかもしれないね
五指を動かしてごらん
つってしまったなら ごめんなさい
何もなかったの? それは仕方が無いね
なんにも望んでいなかったんだろうから
楽しいことや悲しいこと、嬉しいことにむかつく事
どれをつかんだって離しちゃあ いけないよ
必要ないなんて一時だけさ
何処かへすっとばして、後であわてて探すんだろうから
いつだって未完成 足りないものを探してる
完成なんてどこにもないんだよ ここにも
あそこにも 頭の中にも
指先が触れて、気づけたならラッキー
ぐるぐる回る長い道 遠くを引き寄せてもいいし
回り道を引っ張ってみてもいい
指を一本動かせば できるでしょう?
伸ばした手の先にあるのはいつも不可視
見えないが故にいとおしく忌まわしいもの
形作って 彩るのはあなたの指
さあ 手を前に伸ばしてみようか
五指を思いっきり広げたら
ふかしをもぎとってごらん
あなたが望むがままに かたちはなるだろうから
見つかったなら、口の中へと放り込んで……
咀嚼してしまえ
仰ぐ月に紅を残して
時にまどろみながら 永い夜を渡り歩く
留まることも振り返ることもせずに 人間の流れの中を進んでいく
どこからきて どこへゆくのかと 月に問えど
降り注ぐ光のなかに答えは見つからず
地に流れていく赤に月を映して 踏みにじる
はじけた雫は 闇へと溶けた
奇麗な夜に 一輪の赤い花が咲いて
この場所から どこへゆくのかと 花に聞いた
ふたりならばどこへでも 夜が明けるその瞬間まで
時を数えることも忘れて 終わりを探して夜を歩く
咲き誇ってはまたたく間に消えていく 人間の営みを追い越して
風になびいた その髪を照らす光に 永遠を見る
答えは見つからずとも今のままでもいいと
指先に触れる赤を掌で包みこんで くちづける
零れた言葉は 夜へと消えた
この身の赤と その身の赤と
仰ぐ月に紅を残して
黄昏時に唄を
夜の帳が下りて 静かな闇に包まれるその前に
あなたの唄が聴きたい
道端にひっそりと咲き誇る花を見て 綺麗だという
零れ落ちる涙を拭っては 優しく微笑んで
迷いながらもすべてを受け入れようとする 澄んだ眼差し
この名前を呼ぶ何色にも染まることのない 透明な音
あなたが紡ぐすべてのものが わたしへと触れて
暖かくしていくから
あなたの唄が聴きたい
月が色を変える前に この黄昏に手が届かなくなる前に
あなたの唄を聴かせて
刹那の瞬間さえも 永遠へと変わるから
楽園
平和という名の鎖に縛られた
美しくも愚かな天使たち
煌びやかなイミテーションの世界で歌を紡ぐ
奏でるのは至上の音 背負いしは至高の罪
疑うことを知らず 永遠を信じ神を愛して
その背の翼はすでにもがれているというのに
絡みつく荊に囚われたのは 在りし日の姿
その瞳はなんて悲しそうなのだろうか
堅牢な檻のごとく 揺るがぬ世界の中
偽りの楽園に捧げる 荊の冠
いいわけ
ぼくのため わたしのため きみのため あなたのため
誰かのためにすることは どこまでも美しい
愛して いつくしんで 憎んで 壊して
誰かのためならば どこまでも堕ちていける
本当は誰かのためなんかじゃない
止まることのできない理由が欲しいだけ
微熱
ほんのすこし
熱さを感じているのに
抱きしめる腕は
想いが強くて 離れなくて
絡めた指が
いとおしくて 離せなくて
緩やかにこの身を侵していくのは
眩暈がするような 甘い 微熱
目隠し
貴方はいつも私の目を閉ざす
隠してしまっては 何もわからないというのに
肌に触れる指は暖かく
頬に落ちる唇は冷たく
あぁ 貴方の表情が見えない
暗闇の中では手を伸ばしても届かない
きっと 私の涙も貴方には見えていないのでしょうね
伝い落ちる前に消えてしまうのだから
名は存在の証
自分なんてものは いつだって
移り気で不安定
あっちこっちへふらふらと
消えてしまいそうなほど
どれが嘘か本当かなんて見分けがつかないんだ
けれど 君が僕の名前を呼んでくれるから
自分を見失わずにいられるんだ
君が呼ぶ名前が 僕が僕である証
幸福に盲目
しあわせの匂いを感じると
泣きたくなるのはなぜだろう?
もっとよく見たくて 目をこらすのに
ぼやけ霞んで 溶けてしまう
冷たさを感じて やっと気づいた
羨ましいから 悲しいのだと
求めても叶わないと知っているのに
なお願い続けるのは 寂しいね
しあわせは まぶしすぎてみえない
灰雪
アスファルトに降り積もる雪
傘を差しながら足跡を刻んでいく
鈍色の空を見上げてふと思う
ずっと昔は傘を差さずに歩いていたのに
いつからか 降り注ぐ雪をわずらわしく思って
あの頃はきっと 真っ白な雪と真っ白な心だったのだろう
今の私に降り注ぐのは
重く濁った 灰色の雪
カニバリズム(僕)
いとしい君へ
いつか永遠の別れが来てもしも、僕が君より先に死んでしまったならば
そのときは 僕を食べてください
僕の血を肉を骨を心臓をひとかけらも、 一滴も残さずに
食べつくしてください
そうすれば、ずっと一緒です
血肉が混ざり合い君を作る僕が 君になるんです
嗚呼 なんて素敵なことなのでしょう
僕のことを愛しているというのならどうか食べてください
君が僕を食べつくしたとき
君の中で僕は ありがとうと言うでしょう
もしも君が先に死んだのなら 僕は君を食べるでしょう
二人の愛に誓って
カニバリズム(俺)
愛しいお前へ
いつか二人がわかたれる時俺のことを愛しているならば
俺を喰らい尽くしてくれ
お前と離れたくないんだずっと一緒にいたんだ
だから 食べてよ
お前が俺を喰らい尽くして俺はお前とひとつになれる
血が肉が骨が心臓が
お前のすべてを作る
これなら、何も怖くないだろう
甘いくちづけも 塩辛い涙もさようならさえもいらない
愛してくれたなら 喰らい尽くしてよ
お前が先に死んでしまったら
俺はお前を喰らい尽くす
ありがとうは また会ったときに
蝶になれたら
ふわふわと舞い飛ぶ蝶になって
空を飛べたらと思う
そうしたら、きっとわずらわしい全てから解放されるのに
地べたにはいつくばらなくてもすむのに
けれど
すぐに磔にされてしまうかもしれない
大きな鎌に捕らわれてしまうかもしれない
一瞬を美しく生きるのと 人生を醜く生きるのと
どちらかなんて 選べやしなくて
うらめしそうに空行くものを見上げながら
今日も地に足をつけて生きていく
もがき続ける僕を取り囲んでいるのは
透き通った透明な虫籠
手を伸ばして
目の前に手を伸ばしてみるけれど
何もないから からぶりをする
少しだけ悲しくて くじけそうになる
でも 今はなにもないけれど
ずっと遠い未来でも 明日にでも
いつか誰かが、この手を取ってくれるなら
伸ばした指先に触れてくれるのなら
差し伸べたこの手もきっと無駄じゃない
まだ見ぬ誰かにめぐり合う日まで
この手を 伸ばし続ける